タロットという言葉はタロット占いとして一般的に知られるようになりました。もちろん現在でも、タロットというと占いの道具であるという認識をもたれる方が大多数だと思います。
ところで、タロットは占いの道具なのかというと、必ずしもそれのみであるとは言い切れません。19世紀末に設立されました「黄金の夜明け団」の教本などを見ていただけますと、タロットは占いのみならず魔術の道具としても用いられるということがお分かりいただけるでしょう。
現在、タロット占い自体は非常にポピュラーなものとなっていて、日本語で読めるタロット占いの入門書も多数出版されています。ところが、魔術の方になるとどうかというと、20年前に比べればかなりの邦語書籍が出版されましたが、まだまだ一般的には知られていない分野といえるでしょう。
魔術というと、たいてい呪いや黒魔術と同視されていて、魔術師といったなら黒いローブに身を包み、いけにえを用いて儀式をしたりする姿を思い浮かべられてしまいます。
ところが、黄金の夜明け団のテキストなどを見れば、魔術=呪いとは言えないことがわかります。有名な魔術の定義を挙げてみましょう。黄金の夜明け団に在籍していたこともある、20世紀最大の魔術師といわれるアレイスター・クロウリーによる定義です。
「魔術とは、主体の意志のままに変化を引き起こす科学(science)であり、技術(art)である」
さらに彼は、魔術の目的について次のように述べています。
「『唯一の至高の儀礼』は『聖守護天使の知識と交渉』の達成である。それは全き人間を垂直線上に上昇させることである」
クロウリー自身の思想で中心的な位置を占めていた言葉に「真の意志」という言葉があるのですが、それを踏まえて上の言葉を見てみたなら、魔術とは真の意志に到達するための科学(つまり知的営み)および技術(実践)といえるかもしれません。
真の意志とは何かというのもまた難しい問題ではありますが、真の意志に到達するとは、心理学者の言葉を借りるなら、マズローの「自己実現」やユングの「個性化」などが意味する事柄に近いイメージなのではないでしょうか(あるいは自分探しの旅のゴールといってもいいかもしれません)。
魔術のおおまかなイメージとしては以上です。
次回は、「占いの道具としてのタロット」と「魔術の道具としてのタロット」の共通点と相違点について述べたいと思います。